わたしはほとんど小説というものを読まないんですが、加藤千恵さんの作品だけは、すごく好きでずっと大切に読んでいます。
今回ご紹介する2冊は、どちらも短編恋愛小説で、とにかく読みやすい。
いくつもの「恋」の1シーンが切り取られた、情景や心情が目の前に広がるような繊細な表現もすごく大好きなんです。
【ハニー ビター ハニー】
加藤千恵さんの小説に初めて触れたのが、「ハニー ビター ハニー」。
小説家としてのデビュー作だったようですね。
もう何年前だろう?当時大好きだった読者モデルさんが、雑誌のバッグの中身公開企画みたいなもので紹介していた小説でした。
それまでも長編の小説はもちろん、「架空の物語」にあまり興味を持っていなかったのですが、完全に「あの可愛い子が紹介してる本だ」というファン心で購入しました。
当時、自分の少しばかりの恋愛経験と1つ1つの心情を照らし合わせたり、描かれていない前後の物語や結末を「この二人はどうなったのかな」と想像して、勝手に心配になったりしていました。
モヤモヤしてみたり、一緒に幸せな気持ちになったり、20ページ前後で読み切れる物語に引き込まれて、えらく感傷的な気分になっていたことを思い出します。懐かしいなあ。
わかっているのに、あきらめきれなかった。お前の家でDVD見ようかな、とか、なんか帰るのめんどくさい気分だな、とか、うちに泊まるときの彼の決まり文句を待っていた。
ハニー ビター ハニー「賞味期限」より
【いびつな夜に】
ちょうど1年前くらいかな?
偶然本屋で見つけた、「いびつな夜に」。
珍しく恋愛小説でも読みたいなと思っていたところだったので、手に取りレジに直行。
「いびつな夜に」は「ハニー ビター ハニー」よりさらに1話が短く、なんと3〜4ページ。
さくらはよっぽど、そうくんのことも、わたしのことも信用しているのだろう。自分が行けなくなったからと、引退するサークルの先輩たちに渡す中国茶を、二人で買ってきてとお願いするなんて。
いびつな夜に「抱えてる感情がわたしを責める いびつで残酷で不確かな」より
ほんの数ページで読み終えるのに、それぞれで余韻が残ります。
加藤千恵さんの文章は、すごくストレートな表現でわかりやすいのに、自分の中のまるで違う経験値と結びつく気がして、どの話もすごくジワっと心に溶け込むんですよね。不思議。
わたしはそっと、ビーズの指輪をなでた。彼の手の中であたたまったのか、冷たいはずの指輪は、わずかな熱を帯びていた。この人が好きだ、と、はっきりと思った。
いびつな夜に「わたしには特別な魔法になった 見えない花は今日も咲いている」より
恋愛ほど心が動きやすいものはないと思うな
恋愛のエネルギー量ってすごくないですか?
心が動く分、しんどいけど、楽しい。
あなたも、似たような経験や同じ心境になったお話に出会えるかもしれません。
誰かを好きになるって、とても尊いことだよな〜と思います。
両思いになれることも奇跡だし、そこから二人の関係を築けるようになるなんて、もっと奇跡ですよね。
わたしが加藤千恵さんの小説に惹かれるのは、日常のなんてことない瞬間を文章で切り取った心地良さがあったり、これからが本番・・という直前でお話が終わっていたり、前後を想像する楽しさがあるからかもしれません。
小説が苦手なわたしでも抵抗感なく自然と染み入る、そんな短編恋愛小説のご紹介でした。